伊藤圭一 株式会社ケイ・アイ・エム 代表取締役

   ソフトとハードの両面からトータルに音楽制作するKimスタジオ主宰
 サウンドプロデューサー・エンジニア、音響監督。
 ヤマハ、ローランド、ソニー、ビクター、デジデザイン、シュアーなど国内     外の音響機器メーカーへ技術提供、現代のデジタルによる音楽制作スタイル     を牽引してきた。
 多くの専門誌へ技術的な寄稿をし、音楽大学で教鞭を執るなど、若手への輩     出や技術の発展に貢献している。
 声優、歌手、アーティストの個々の持つ個性あふれる音の波動にこだわり、     印象的な作品を、数多く世にお送り出し続けている。
 番組出演は、自らDJ、選曲、シナリオ、収録から編集までをKimスタジオで一貫しておこなったラジオNIKKEI『伊藤圭一のサウンドクオリア』。
著書に『歌は録音でキマる!音の魔術師が明かす ボーカルレコーディングの秘密』(刊:リットーミュージック)がある。

公益財団法人かけはし芸術文化振興財団 理事
洗足学園音楽大学・大学院  教授 
東京コミックコンベンション(略称:東京コミコン)初代 統括プロデューサー

ご挨拶


地方の国立大工学部卒の私は、元来、電気や科学の仕組みに興味がありました。学生時代のバンドではギターや作曲、録音をしていましたが、機材のエフェクターも貧乏学生にはなかなか手が出せない。ならば自分で造ってしまおうと、仕組みを解明していくと、それじゃ、もっとこういう回路を組めば、ライブ活動も楽だ、など自分のために開発製作をしていました。そのエフェクターボードをたまたま見た、著名なギタリストが、その利便性に目を留め、自分のためにも造って欲しいという依頼が、口コミのようにだんだんと増えていったのです。
そんな中、転送電話の音が非常に劣化するので手を貸して欲しいと、当時大手の電話機器メーカーを下請けしている工場の社長に声をかけてもらいました。住み込み同然のようにして働きながら回路設計に成功し、その結果工場の年商が前年比20倍と急成長したのです。その成功を足がかりに、六本木でKimラボラトリィを創業し、電子楽器の製作などを手がけていました。

あるとき最も尊敬していたギタリストのひとり、渡辺香津美さんのレコーディングに、彼用の試作エフェクターを持って出かけたところ、たまたまエンジニアさんが時間に間に合わないということで、「お前、できるんじゃない?」と突如降られたのが、自分の初のエンジニア経験でした。そう、私は、一度もエンジニアの学校にも弟子入りした経験もないのです。音にとっての電気の回路は充分わかっていましたから、逆に教科書には書いてないようなコンソールの使い方、マイクの録り方が面白がられ、CDの録音やコンサートのお手伝いをするようになっていきました。

こうして当時のトップ音楽家と毎日のように接している中で、彼らが、音楽を制作する構造に不満を持っていることを知ります。当時、スタジオやエンジニア代が非常に高額であり、どうしても大資本の家電メーカーを後ろ盾にもつ、レコード会社等に所属し出資してもらわなければ、CDは作れませんでした。
音楽家の彼らが、レコード会社に必要以上に気を使い、ほとんどの場合意味のない指示を聞き入れている様子を見て、エンジニアは自分が出来るとして、あと、スタジオがあれば、もっと音楽家が自分の意思でサウンドを創ることができると思ったのです。それからはスタジオを持つために、銀行を何軒もまわり、なんとか資金を調達し、業界標準機デジタルMTR(3348)と自ら設計した世界初の小節カウンター付きコンソールを備えた、南青山Kimスタジオを設立しました。

そうして坂本龍一さん、冨田勲さん、久石譲さんなどと一緒に仕事をするなかで、彼らの音に対する姿勢などを垣間見れたことは、自分の財産となりました。
ProTools、Performerはじめ、国内外の数多くの音響メーカーの顧問を努める等、現代の音楽制作をリードする機材の、初期段階から開発にも携わり続けてきました。ソフトとハード両面からサポートするという、世界的にも例のない存在となれたのです。

こうして私自身が、こだわりつづけてきた音楽家ありきの制作スタイルは、現代においては、それが基本となりました。多くの音楽家が、ひとりで作曲から仕上げまでこなせるように環境が追いついたのです。
そのうえ流通の形態変化もあって、仕上がった作品を販売したり、公開したりも自由に出来るまでになったのです。
ただ、商業として成立する事は容易ではないのも実情です。

環境が手に入ったとしても、聞いてもらうお客様の心に響く音楽を作る事ができなければ、支持をいただき長く続ける事はできません。

いままで私どもが培ってきた技術やノウハウを活かしながら、これからも様々な業界、業種の方々、音楽家と共に、音楽制作の発展に貢献して参りたいと思っております。                   伊藤圭一